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ホテルの宿泊価格は、この数年でかなり上がっている。
2022年頃からの円安や国際情勢により、輸入に頼っていた食材や燃料の価格が上がりました。
国内では人手不足と賃上げが続き、2025年には最低賃金が過去最大の引き上げとなりました。
そこへ、円安で日本への旅行が割安になったことによるインバウンド需要の増加も重なっています。
日本には長く、価格を据え置くことをお客様への誠意とする美徳がありましたが、コストの急激な上昇という現実に合わせて、ほぼ全ての業界で価格改定が進んでいます。さらに宿泊業では「レベニューマネジメント *1」という考え方も浸透してきており、以前より「価格を上げる」という判断は珍しいものではなくなってきました。
そのような背景もあり「値上げすること」はもう特別な悩みではなくなりました。その代わりに「この価格を何の価格として出すのか」が問われるようになっています。
例えば、19,000円を21,000円にするのと、3万円を5万円にするのでは、まったく違う意味の値上げです。値上げの背景が違えば「お客様に伝えるべきこと」も変わります。支払う費用の対価はなんなのか、それをどう打ち出すのか。
この記事では、数多くのホテルブランディングに携わってきた私たちが、値上げをするときに何を伝えるべきなのかを考えていきます。
※1 レベニューマネジメント:需要予測をもとに、宿泊料金や客室の販売数・条件などを調整し、収益の最大化を図る考え方。需要が高いときに料金を上げるだけでなく、需要に応じて価格や販売方法を最適化する手法
突然ですが、明日から5万円値上げしてください
理由は何でも構いません。ライバルが急に値上げしたからかもしれないし、改装した借入の返済かもしれないし、オーナーの決断かもしれない。
とにかく一番自信のある一部屋を、明日から5万円上げることになったとしましょう。
値上げ幅が数千円なら話は簡単です。コンビニのおにぎりが20円上がっても「まあ、コスト調整だよね」で済むように、価格表記を変えて、それで済みます。
これが5万円だと話が変わってきます。料理を変えるか、家具を変えるか、サービスを増やすか。5万円分の「何をどう良くするか」という思いが頭を巡ります。


ところが実際には、同じ部屋でも時期によって倍以上の値段になることがあります。
お盆やお正月、大型連休、地域の有名な催しがある日など、泊まりたい人の需要に対してその地域の部屋数が不足していれば、宿泊代は上がっていきます。
何も足していないのに、価格は変わる。それを一番よく知っている宿泊業の方でも、いざ大きく上げるとなると身構えてしまいます。これが値決めの面白いところです。
では、繁忙期も閑散期も関係なく、最初からとんでもなく高いラグジュアリーホテル *2は、あの価格をどう決めているのでしょうか。
※2 ラグジュアリーホテル:世界でも指折りの品格とブランド力を備え、富裕層から指名で選ばれる最高価格帯のホテル。この記事では1泊10万円を超える水準を目安に使っている
ラグジュアリーホテルの、不思議な価格
例えば、京都です。
この5年、10年でラグジュアリーホテルの開業が相次いでいます。
今年(2026年)は、日本のホテルの代表格でもある帝国ホテルも京都に開業し、私たちもすぐに視察にいきました。
帝国ホテルには長い歴史と格式がありますが、今回の京都はそれに加えて、国の登録有形文化財である弥栄会館を継承した、由緒正しいホテルでもあります。
客室は16万円台から、最上位のインペリアルスイートは1泊300万円。レストランも決して安くはなく、さすがの価格でした。

京都には、日本のホテルやお宿以外にも、外資系のラグジュアリーホテルもあります。
宿泊費は、いつ泊まるか、どの部屋にするかで大きく変わるので単純比較はできませんが、現在の価格をざっと調べると、下の表のとおり、同じ京都のラグジュアリーホテルでもかなり幅があります。とはいえ、正直、どこに泊まるにも勇気のいる価格です。


それぞれのホテルは、立地も客室もサービスも違います。
基本価格が最も高額なアマンには、アマンにしかないブランドや空気があります。帝国ホテル京都にいたっては、同じホテルの中に16万円台の部屋と300万円の部屋(価格差はおよそ19倍)が存在します。他のホテルもまた、それぞれの魅力を持っています。
このような価格差を「格の違い」と言ってしまえば簡単ですが、「その格とは何ですか?」と聞かれると明確に答えられません。この価格の差は何なのでしょうか。
お客様は何に、20万円払ったか
ホテルが自分たちの強みを挙げるとき、出てくるのは、客室や料理といったスペックの話か、建築や土地の歴史といった「格」につながる話です。さらにここには、WebサイトやSNSなど、宿に来る前に触れるものも入ってきます。どれも大切です。
これが、泊まる側の視点になると変わってきます。
20万円払った人に「なぜこの宿でしたか」と聞いて、「部屋が80㎡以上だったから」「料理が美味しそうだったから」だけで選んだ人は、そう多くないと思います。
「結婚記念日に妻を喜ばせたかった。」
「両親を一度ここへ連れてきたかった。」
「プロポーズを絶対に失敗したくなかった。」
宿泊者は、客室や料理を買いながら、その宿泊体験を使って、自分たちの何かを成立させています。
20万円という支払いそのものが「あなたとの日は、それだけ特別です」という想いの表れなのです。
つまり、お客様が払った20万円は、「宿が出しているもの」だけでなく、「泊まる人がそれぞれに持ち込むもの」と組み合わさって、はじめて成立していたのです。
価値は「もの」の中だけにあるわけでもない
ライブを開けば1席100ドルはかかる世界的なバイオリニスト*3 が、ラッシュ時の地下鉄で演奏した有名な企画があります。
グラミー賞も受賞し、世界中のコンサートホールを満席にしてきた、世界最高峰の演奏家だったのですが、地下鉄構内だと、ほとんどの人がそのまま通り過ぎるという結果になりました。
演奏する人も、楽器も、技術も同じです。変わったのは、場所と、チケットの有無と、そこにいる人が「音楽を聴きに来ているかどうか」でした。


金額を知っているからこそ、同じようなことが起きるのです。
「高いワインの方がおいしく感じる」という計測研究があります。ホテルでも、冷蔵庫の同じミネラルウォーターが、20万円の部屋では上等な水に感じられるはずです。
同じ演奏でも、同じ水でも、受け取る人の状況と気持ちが違えば「体感は別のもの」になります。
そして「いくら払ったか」も、受け取る人の状況の一つです。
高い宿泊費を払った人は、それに見合う体験ができるはずだと思って部屋に入ってきます。
人の感じ方はそういうものです。値段を見た瞬間から、その人の中で体験は始まっています。
だからこそ、その値段をどう見せるかは、体験の最初の設計になります。
※3 2007年、Washington Post紙の企画。世界的なバイオリニストのJoshua Bell(ジョシュア・ベル)が身分を明かさず、ワシントンD.C.の地下鉄駅で朝のラッシュ時に約45分演奏した。使った楽器は350万ドル超のストラディバリウス。足を止めた人はごくわずかで、投げ銭は32ドルほどだった。
では、それをどう打ち出すのか
値上げの理由を伝えるというのは、「この価格は、何の価格なのか」を伝えることです。
それは、お知らせに文章をただ書くことではなくて、自分たちのホテルは、誰に、何を約束しているのか、を決めることから始まります。
それを言葉にして、伝わるようにしていく工程を「ブランディング」といいます。


この「約束が決まっている」ホテルでは、価格の説明に迷いません。キャッチコピーも、お知らせ文も、サイトも、写真も、同じ考えから作れるからです。
受け取る側にも、どこで触れても変わらない、一つのメッセージとして伝わっていきます。
逆に決まっていない場合は、値上げのたびに迷うことになります。今回は食材の仕入れの値上がりにしておくか、少しサービス改善の話も混ぜておこう、もともと景色もいいんだから上げていいはずだ。迷いながら決めた値上げ理由は、嘘ではないのに、なぜかお客様にもうまく伝わりません。


その差は、お知らせ文の一行にもそのまま出ます。
例えば、
「原材料費および人件費高騰のため、価格を改定いたします」と「一組ごとに十分な時間をかけられる現在のサービス体制を維持するため、価格を見直します」。前者は値上げが必要になった事情を説明しています。後者は、その値上げで何を続けようとしているのかまで伝えています。
かといって、価格の理由を全部お知らせに書けばいいわけでもありません。「両親を安心して連れていける」「何もしない時間を過ごせる」という約束を、価格改定のお知らせに書いたら不自然です。こういうものは、普段からサイトや宿泊プラン、写真、予約までの体験を通して伝わっているほうが自然です。約束の中身によって、伝える場所が変わります。


お知らせ文も、サイトも、写真も、予約体験も、全部が「この価格は何の価格か」を毎日語っています。何を直接説明し、何を普段から見せておき、何をあえて説明しないのか。長く説明することが誠実とも限りません。そこまで決めることが、値上げ理由の言語化です。
理由は、値上げするときにつくるものではない
値上げを決めると、まず「どう説明しよう」と考えます。
でも順番は逆で、説明はつくるものではなく、自分たちのホテルの中から見つけるものです。
私たちクリップではこれまで、ホテルや宿のサイト制作を多く手がけてきました。
ただカッコいいサイトをつくる制作会社ではなく、「そのホテルは何で選ばれるのか」を考えるところからジョインできます。
その価値をどう伝えるかを、公開後も効果が出続けるデジタル戦略として設計する。その結果、ブランドを体現したカッコいいサイトが誕生します。
値上げに迷っている、価格に見合うブランドを築きたい。
そのような思いがあれば、お力になれることがあると思いますので、ぜひ一度私たちにご相談ください。